なろうレビュー「天才最弱魔物使いは帰還したい」

 本ブログの記念すべき初レビューは小説家になろうで連載中の「天才最弱魔物使いは帰還したい」です。ブログを始めたきっかけという記事でも説明したのですが、元々このレビューはなろうのレビュー欄に投稿しようと考えていました。しかし、400文字の字数制限に引っかかりあえなくボツに。そんなレビューを載せます。未読の方に向けたレビューとなるので、この作品の存在を知らなかったという人は是非このレビューを読んでください。

 

 本作は、なろう的には変わった主人公に定評のある槻影さんの新作です。今作の主人公は天才魔物使いフィル。私はフィルがなろうのキャラの中で一番好きです。私がフィルを好きになったのは、本作のリメイク前の作品「tamer's  mythology」がきっかけとなります。本作でもフィルの魅力がそのまま作品の魅力になっていると思います。そのため、このレビューはフィル中心に本作の魅力を語ることとなります。

 

 本作における魔物使いの設定は少し変わっていて、魔物使いというよりRPGの強化魔法を使えるバフ使いが近いです。バフ使いと異なる点としては、バフを受ける側は従者と呼ばれ、契約を行う必要がある点です。

 しかし、本作の主人公フィルは魔力が全くありません。本人の戦闘力も皆無です。バフもかけられない、魔力がないので強い従者と契約を結ぶこともできない。それでも彼が天才とされるのは、優れた知識、判断力、探究心を持っているからです。その上、一切の隙がない。彼自身の戦闘力が皆無なので常に慎重かつ万全を期す性格。感情にも流されず、冒険者としての経験も豊富、弱点がありません。作中では、SSS等級の探求者という設定ですが、その設定通り完璧人間です。また、完璧人間な面もありますが、かっこつけたがりな所もあるし女性を口説くこともあるので真面目人間というわけでもない。一言で表すのが難しいキャラです。

 最初に槻影さんは変わった主人公に定評があると言いましたが、フィルは比較的まともなキャラとして描かれています。後輩魔物使いのトラブルを面倒といいながら解決しようとする場面。移動手段としての魔物に対して、礼儀正しく挨拶をしてから騎乗する場面。契約を結ぶアムがポンコツでも、駄目な子ほど可愛いと育成する場面。アムが迷惑をかけた人に一緒に謝罪に行く場面。本人は最弱の種族だからこそコミュニケーションを大事にしているということですが、とても真面目なキャラに見えます。データを取るために他種族の女性を裸にしようとする場面もありますが、コメディ調な場面なので変人ではないと思います……たぶん。   

 槻影さんの他作を読んでいる方なら尚更まともに見えるかもしれません。嘆きの亡霊のクライほど内面と外面の評価に差があるわけでもない、昏き宮殿のエンドほどの生への執着を感じるわけでもない、ありがちな変人キャラの域を出ていないように感じると思います。

 しかし、最後まで読むとその印象が一変します。そして、そこに関わるのが作中を通して伏線となる「謎」です。作中冒頭、フィルは竜に敗北します。あの一切弱点がないと言った天才が敗北します。加えて敗北の原因も不明。共に戦う従者の力は竜を上回っていた。準備は完璧だった、装備も完璧、討伐対象のことも完全に把握していたのにも関わらず敗北した。私たちで言えば、攻略サイトを見て、レベルを上げてボスの行動パターンもギミックも全て把握していたのにボスに負けたようなものです。なぜ敗北したのか、フィルの印象が一変するほどの敗北の理由とは何なのか。この謎の真相こそが本作一番の魅力になります。

 

 ヒロインの一人であるアムも変わったキャラです。アムはポンコツで怠惰でずる賢くて、病んでいて……とこれもまた一言で表しにくいヒロインです。ポンコツなヒロインや実は病んでいるヒロインが好きな人には刺さるキャラだと思います。

 作中ではフィルがアムを育成する場面が多々あります。フィルがアムを育てて、アムは肉体的にも精神的にも強くなります。天才主人公がポンコツヒロインを育てるという構図自体は他作品にも見られるものです。ですが、キャラは一風変わった性格をしている。このように、王道なストーリーに対して邪道なキャラが合わさるのも本作の魅力の一つです。

 

 以上、本作はキャラもストーリーも本当に魅力的です。リメイクにあたって多くの場面がカットされてしまったのが本当に残念ですが、リメイクによって非常に読みやすくなっています。

 一風変わった作品をなろうで読みたい人、本作「天才最弱魔物使いは帰還したい」が絶対におすすめです。web版は下記のURLから、気に入った人は書籍版も是非。

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